処理業者から届いた値上げの通知を前に、上長への説明材料を探している。
この記事にたどり着く方の多くは、そういう状況ではないでしょうか。
はじめまして、末永康平と申します。
関東の樹脂成形メーカーで16年、資材調達と工場の廃棄物管理を担当していました。
今は独立して、中小製造業の廃棄物コストと資源循環の相談を受けています。
現場にいた頃、私は毎年のように処理単価の改定通知を受け取っていました。
そのたびに「また上がるのか」と思いながら、社内では「業者が値上げしてきたので」としか説明できない。
これがいちばん歯がゆかったんです。
値上げには、便乗と構造的な要因が混ざっています。
両者を切り分けられないと、交渉のしようがありません。
この記事では、産業廃棄物、特に工場から出る廃プラスチックの処理費が上がり続けている理由を、公的な統計に当たりながら4つに分解します。
そのうえで、工場側で実際に手を打てるポイントまで書きます。
数字はすべて出典を付けましたので、社内資料にそのまま転用していただいて構いません。
Contents
そもそも処理費の相場はいくらなのか
理由の話に入る前に、自社の単価が相場のどのあたりにいるかを確認しておきましょう。
ここが分からないまま値上げの是非を論じても、話が空回りします。
廃プラスチック類の単価目安
廃プラスチック類の処理単価は、おおむね次のレンジに収まります。
- 一般的な目安:1kgあたり30円〜60円程度
- 幅を広く取った業界相場:1kgあたり30円〜110円程度
- トン単位に換算すると:1トンあたり3万円〜11万円程度
産業廃棄物の中でも、廃プラは処理費が高い部類です。
理由は単純で、燃やすと高カロリーで炉を傷めやすく、埋め立てても分解されず容積を食うからです。
処理する側から見て、扱いにくい廃棄物なんですね。
なお、kg単価とトン単価を混同すると桁を間違えます。
「4万円/トン」と「40円/kg」は同じ意味です。
社内で相見積もりを並べるときは、必ずどちらかに単位を揃えてください。
同じ「1トン」でも請求額が変わる
ここで見落とされがちなのが、排出側の状態によって請求額が動く点です。
- 水分の付着:洗浄後や屋外保管で濡れた廃材は、そのぶん重量が増える
- 異物の混入:金属やラベル、他樹脂が混ざると選別工数が乗る
- 圧縮の有無:かさばったまま出すと運搬効率が落ちる
- 計量方法:実測かコンテナ容積換算かで数字が変わる
私が工場にいた頃、雨ざらしのヤードに置いていたフレコンを屋根の下に移しただけで、月次の請求重量が目に見えて減ったことがあります。
水を捨てるのにお金を払っていた、というだけの話です。
単価そのものは業者との交渉事ですが、重量は自社の管理でコントロールできます。
値上げ対策として最初に見るべきなのは、実はここです。
理由1:海外という出口が閉じた
では本題です。
処理費が上がる最も大きな構造要因は、廃プラの行き先が国外から国内へ強制的に戻されたことにあります。
中国の輸入禁止で何が起きたか
かつて日本の廃プラは、かなりの量が中国に流れていました。
その流れが2017年末から段階的に止まります。
中国が廃プラの輸入を制限したためです。
ジェトロの統計によると、日本の廃プラ輸出に占める中国の比率は、2017年には5割を超えていました。
それが2020年には0.8%まで落ちています。
輸出量そのものも、2014年の167万トンから2020年には82.1万トンへと、ほぼ半減しました。
代替先としてマレーシアやベトナム、台湾への輸出は増えました。
ただ、これらの国も受け入れ量には限りがあり、規制強化の動きが続いています。
かつて国外で処理されていた分が、国内の施設に上乗せされた。
需要と供給の関係で言えば、処理サービスの需要だけが急に増えた状態です。
バーゼル条約の改正が追い打ちをかけた
2021年1月には、有害廃棄物の国境を越える移動を規制するバーゼル条約の附属書が改正され、汚れた廃プラスチックや、リサイクルに適さない廃プラの輸出に、相手国への事前通告と同意の手続きが必要になりました。
環境省の資料でも、この改正以降に日本からの廃プラ輸出量が減少したことが示されています。
制度の詳細は環境省のバーゼル法に関する説明資料にまとまっていますので、輸出に関わる方は一度目を通しておくとよいと思います。
出口が2つ同時に細くなった。
これが2018年以降の処理費上昇の起点です。
理由2:運ぶコストが構造的に上がった
産廃の費用は「収集運搬費」と「処分費」の二階建てです。
見積書でも項目が分かれているはずです。
このうち収集運搬費が、ここ数年で明確に上がりました。
ひとつはエネルギー価格です。
ウクライナ危機以降の燃料費高騰は、そのままトラックの運行コストに乗ります。
もうひとつが、いわゆる2024年問題です。
2024年4月から、自動車運転業務の時間外労働に年960時間の上限規制が適用されました。
規制導入前の試算では、2024年度に約14%の輸送力不足が生じるとされていました。
この数字は前提条件によって変動するため断定はできませんが、ドライバー1人あたりが運べる量に上限がかかったこと自体は事実です。
加えて、処理業界そのものが人手不足と高齢化に直面しています。
選別ラインは今も人の目と手に頼る部分が大きく、人件費の上昇がそのまま処理原価に反映されます。
つまり、廃棄物を「動かす」「触る」工程のコストが軒並み上がっている。
処理業者からの値上げ要請には、この部分については相応の根拠があります。
理由3:処分場は「満杯」ではなく「偏在」している
ここで、よく語られる説をひとつ検証しておきます。
「最終処分場がもうすぐ満杯になるから処理費が上がる」という話です。
実データを見ると、この説明は正確ではありません。
環境省の令和7年版環境白書によると、産業廃棄物の最終処分場の残余容量は1.81億立方メートル、残余年数は20.0年です(2022年度実績)。
前年度版では残余容量1.71億立方メートル、残余年数19.7年でした。
つまり残余年数は、近年むしろ延びています。
理由は、リサイクルが進んで埋立量そのものが減っているからです。
環境省が2026年3月に公表した最新統計(令和5年度実績)でも、産業廃棄物の総排出量は3億6,725万トンで前年度比1.8%減、最終処分量は875万トンで3.0%減となっています。
では、なぜ処分先の確保が難しいと言われるのか。
問題は総量ではなく、地域の偏りにあります。
環境白書は、首都圏などの大都市圏について、土地利用の高度化や環境問題を理由に、焼却炉などの中間処理施設や最終処分場を確保することが難しい状況にあると明記しています。
全国平均では20年分の余裕がある。
しかし排出量が集中する都市部には受け皿が足りず、遠方まで運ばざるを得ない。
その運搬距離が、理由2で述べた運搬コストの上昇と掛け算になります。
社内説明では「処分場が満杯になるから」ではなく「近場に処分先がなく、遠くまで運ぶコストが上がっているから」と言ったほうが、事実に即していますし、説得力もあります。
理由4:処理費が上がるよう制度が設計されている
4つ目は、意外と知られていない視点です。
焼却や埋立に回すほど高くつくように、制度が意図的に設計されています。
産業廃棄物税という存在
多くの道府県には、産業廃棄物税という法定外目的税があります。
福岡県の例では、税率は次のとおりです。
- 最終処分場への搬入:1トンあたり1,000円
- 焼却施設への搬入:1トンあたり800円
金額だけ見れば大きくありませんが、注目すべきは課税対象です。
最終処分と焼却には課税され、リサイクルには課税されません。
税収は産業廃棄物の発生抑制やリサイクル促進の施策に充てられます。
詳しい仕組みは福岡県の産業廃棄物税の概要で確認できます。
「捨てるルートを選ぶと高くなる」という価格シグナルを、行政が意図的に作っているわけです。
プラスチック資源循環促進法
2022年4月には、プラスチック資源循環促進法が施行されました。
一定規模以上の排出事業者には、プラスチック使用製品産業廃棄物の排出抑制と再資源化に取り組む努力義務が課されています。
自ら再資源化事業計画をつくって認定を受ける制度も用意されています。
制度の全体像は環境省のプラスチック資源循環の特設サイトにまとまっています。
法規制と税制の両輪で、焼却・埋立から資源循環へと事業者を誘導する。
処理費の上昇は、その副作用ではなく、むしろ政策の効果そのものだと捉えたほうが実態に合っています。
だとすれば、値上げを嘆いても状況は改善しません。
処理ルートそのものを見直すほうが筋がいい、という結論になります。
「リサイクル率89%」の中身を確認しておく
ルート見直しの話に進む前に、日本のプラスチックリサイクルの実像を押さえておきましょう。
ここを誤解していると、判断を間違えます。
一般社団法人プラスチック循環利用協会が公表した2024年のマテリアルフローによると、廃プラスチックの総排出量は911万トン、有効利用率は89%でした。
数字だけ見れば優秀です。
ただし、内訳を見ると印象が変わります。
| 処理方法 | 割合 | 量の目安 | 内容 |
|---|---|---|---|
| マテリアルリサイクル | 20% | 約182万トン | 粉砕・洗浄してペレット化し、再び樹脂原料として使う |
| ケミカルリサイクル | 3% | 約27万トン | 化学的に分解し、原料や油・ガスに戻す |
| サーマルリサイクル | 67% | 約610万トン | 焼却熱を発電や熱利用でエネルギー回収する |
| 未利用(単純焼却・埋立) | 11% | 約101万トン | 有効利用されていない分 |
有効利用89%のうち、実に67%が燃やして熱を回収するサーマルリサイクルです。
国際的には、これをリサイクルに算入しない考え方が主流です。
素材として再び使われているマテリアルリサイクルは20%にすぎません。
しかもマテリアルリサイクル品のかなりの割合が輸出されているとされ、協会自身も2024年度のフロー図から輸出量の推定方法を見直し、数値に幅を持たせています。
そのため、この部分の数字は幅を持って読む必要があります。
いずれにせよ、国内で樹脂原料として循環している量は、思っているより少ない。
裏を返せば、廃プラを素材として引き取れる事業者は、それほど多くないということです。
値上げを前提に、工場側でできること
ここまでの4つの理由は、いずれも一企業の努力で覆せるものではありません。
処理費が下がる方向の材料は、正直なところ見当たりません。
そのうえで、打てる手は3つあります。
排出量そのものを減らす
歩留まりの改善やスプルー・ランナーの社内再利用は、地味ですが最も確実です。
処理費は重量に比例するので、排出量が減れば単価交渉なしでコストが下がります。
重量に効く条件を整える
先に触れた水分と異物です。
- 屋外保管をやめ、雨水の付着を防ぐ
- 樹脂種ごとの分別を排出工程で徹底する
- 金属インサートやラベルなど、混入物の扱いを業者と事前にすり合わせる
- 圧縮・梱包して運搬効率を上げる
分別の精度が上がると、単に重量が減るだけでなく、次に述べる有価取引の可能性が出てきます。
「処分してもらう」から「買い取ってもらう」へ
同じ廃プラでも、種類が特定できて汚れが少なければ、再生原料としての価値が生まれます。
処分費を払う側から、売却代金を受け取る側に回れる可能性があるわけです。
ここで、業界でよく使われる2つの言葉を整理しておきます。
- PIR(Post-Industrial Recycled):製造工程で発生した端材や不良品が由来。素材が特定でき、汚れが少なく品質が安定しやすい
- PCR(Post-Consumer Recycled):消費者が使用した後の製品が由来。品質のばらつきが大きく選別・洗浄の難度が高いが、環境価値の評価は高い
工場から出る廃材の多くはPIRに該当します。
これは買取交渉において有利な条件です。
一方で、単一樹脂の端材しか買い取らない事業者も少なくありません。
複合素材や塗装品、金属インサート品といった「面倒な廃材」ほど処理費が高く、しかも引き取り手が限られます。
現場の悩みは、たいていこちらにあります。
こうした難しい素材まで含めて対応する事業者も存在します。
たとえば群馬県太田市に本社工場を構える日本保利化成株式会社の廃プラ買取と再生ペレット製造への取り組みは、汎用樹脂からスーパーエンプラ、複合素材までを含む50種類以上の樹脂を扱い、買取から再生ペレット化までを自社で担う体制を紹介しています。
同社は2018年に設立され、2025年4月にはグローバルリサイクルスタンダード(GRS)認証を取得しています。
GRSは、再生材の含有率とサプライチェーンのトレーサビリティを第三者機関が確認する国際認証で、再生材の調達側から見た信頼性の目安になります。
もちろん、一社で決めずに複数社から見積もりを取るべきです。
買取価格は樹脂種と市況で動きますし、引き取り可能な形状や量にも条件があります。
「買い取ってもらえば処理費ゼロ」ではない
最後に、実務上とても重要な注意点をひとつ。
「有価で売れるなら産業廃棄物ではないので、マニフェストは不要」という理解は危険です。
廃棄物に当たるかどうかは、有償で取引されているかどうかだけで決まりません。
国立環境研究所の解説にあるとおり、行政は総合判断説という考え方を取っており、次の5つの要素を総合的に勘案して判断します。
- 物の性状
- 排出の状況
- 通常の取扱い形態
- 取引価値の有無
- 占有者の意思
判断の根拠は昭和52年の通知や、その後の「行政処分の指針」に示されています。
詳しくは国立環境研究所のコレは廃棄物?〜廃棄物該当性の考え方〜が平易にまとまっていますので、担当者は一読しておくことをおすすめします。
特に注意が必要なのが、いわゆる逆有償のケースです。
売却代金より運搬費のほうが高くつく場合、排出時点では産業廃棄物として扱い、マニフェストを交付する運用が求められることが多くなります。
「将来的に有価物になる見込みだから」という理由でマニフェストを省略すると、不交付という重大な法令違反になりかねません。
電子マニフェストの運用や制度の詳細は、公益財団法人日本産業廃棄物処理振興センターのJWセンター公式サイトで確認できます。
コスト削減とコンプライアンスは、どちらかを取ればいいものではありません。
買取の話を進めるときは、必ず取引形態と書類の扱いを業者と文書で確認してください。
私の経験上、ここを口頭で済ませた案件は、あとで必ず揉めます。
まとめ
産業廃棄物の処理費が上がり続けている理由を、4つに分けて見てきました。
- 中国の輸入禁止とバーゼル条約改正により、海外という出口が閉じ、国内処理に負荷が集中した
- 燃料費高騰と2024年問題により、収集運搬のコストが構造的に上昇した
- 処分場は全国的に満杯なのではなく、大都市圏で確保が難しいという偏在の問題がある
- 産業廃棄物税やプラスチック資源循環促進法により、焼却・埋立が割高になる制度設計がなされている
いずれも一時的な要因ではありません。
今後、処理費が大きく下がる展開は考えにくいと見ておくべきです。
そのうえで、工場側にできることは残っています。
排出量を減らし、水分と異物を管理し、分別の精度を上げる。
そこまでやったうえで、処分ではなく買取のルートを探る。
日本のプラスチックの有効利用率は89%に達していますが、素材として循環しているのは20%です。
この20%の側に自社の廃材を乗せられるかどうかが、これからのコスト差になっていきます。
値上げの通知は、処理ルートを見直す機会でもあります。
まずは自社の廃材が「どの樹脂が、どんな状態で、月に何トン出ているか」を数字にするところから始めてみてください。
交渉も相見積もりも、その一枚がなければ始まりません。
最終更新日 2026年7月31日 by agimem




